第26章「新しい訪問者」

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『Re:bloom』が開設されて一年が経った秋の日。サロンのドアが、静かに開いた。そこには、三十代半ばと思われる女性が、不安そうに立っていた。「あの……こちら、Re:bloomさんですか?」「ええ、そうです。どうぞ、お入りください」凛子が、優しく微笑みかけた。女性は、おずおずとサロンに入ってきた。その姿は、かつての三人を思い起こさせた。疲れた表情、うつむき加減の視線、そして、心の奥底に秘めた、小さな希望の光。

「初めまして。田中と申します」女性は、ソファに座ると、ハンカチを握りしめながら話し始めた。「実は、夫婦関係のことで……最近、主人と全く会話がなくて。私、このままでいいのか、分からなくて……」その言葉を聞いて、三人は顔を見合わせた。凛子が、静かに口を開いた。「田中さん。あなたのお気持ち、とてもよく分かります。実は、私も、かつて同じ場所にいました」「え……?」田中は、驚いて顔を上げた。

「ええ。私も、夫との会話がなく、冷え切った関係に苦しんでいました。でも、今は違います。少しずつですが、関係を再構築できました」凛子の言葉に、麗奈が続けた。「私もです。私は、SNSの承認欲求に囚われて、家族との関係を壊してしまいました。離婚も経験しました。でも、今は、娘たちと、新しい幸せを見つけています」咲も、静かに語り始めた。「私は、家族のために尽くすだけで、自分自身を見失っていました。でも、翻訳の仕事を始めて、夫や家族との関係が、劇的に変わりました」

三人の告白を聞いて、田中の目から、涙が溢れてきた。「皆さん……私と同じだったんですね……」「ええ。だから、あなたの気持ちが、痛いほど分かります」凛子は、田中の手を、優しく握った。「田中さん。あなたは、一人じゃありません。ここには、あなたを理解し、支える仲間がいます」その言葉に、田中は、声を上げて泣き始めた。三人は、静かに田中を見守った。かつて、自分たちも、このように泣いた。そして、栞に支えられた。今度は、自分たちが、誰かを支える番だった。

その日から、田中は、定期的に『Re:bloom』を訪れるようになった。凛子のカウンセリングを受け、麗奈のセルフケア講座に参加し、咲のAI活用講座で学んだ。そして、三ヶ月後。田中は、三人に報告した。「皆さん、聞いてください。私、在宅でWebデザインの仕事を始めたんです。まだ月3万円ですけど……」その言葉に、三人は、拍手をした。「素晴らしいわ! 田中さん!」麗奈が、目を輝かせた。

「それに、主人との関係も、少しずつ変わってきて……。昨日、主人が『お前、最近、楽しそうだな』って言ってくれたんです」田中の顔は、初めて会った日とは、全く違っていた。明るく、希望に満ちていた。「田中さん。あなたは、自分の力で、ここまで来たんですよ」凛子が、優しく言った。「いいえ。皆さんがいたから。皆さんがいなければ、私、まだ暗闇の中にいました」田中は、三人に深く頭を下げた。「本当に、ありがとうございます」

その後も、『Re:bloom』には、多くの女性たちが訪れるようになった。夫婦関係に悩む人、SNSに疲れた人、自分を見失った人。皆、かつての三人と同じように、苦しんでいた。でも、『Re:bloom』で、仲間と出会い、支え合い、そして、再び花開いていった。三人は、自分たちの経験が、誰かの役に立っていることに、大きな喜びを感じていた。それは、かつて求めていた「承認」とは、全く違うものだった。それは、人と人とのつながりから生まれる、温かく、確かな、生きる意味だった。

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