それから、さらに半年が経った。『Re:bloom』は、札幌の女性たちの間で、確固たる信頼を得るまでになっていた。口コミで評判が広がり、今では、予約が数週間先まで埋まっている状態だった。三人は、それぞれの専門分野で、多くの女性たちを支援していた。ある秋の朝。凛子は、自宅のダイニングテーブルで、コーヒーを飲みながら、窓の外を見つめていた。夫・誠は、すでに出勤していた。別れ際に、誠が言った。「凛子、今日のカウンセリング、頑張ってな」その一言が、凛子の胸を温かくした。
誠は、今では、凛子の仕事を心から応援してくれている。二人の関係は、かつてのような冷たいものではなく、互いを尊重し合う、温かいものになっていた。完璧な夫婦ではない。時には意見が対立し、時には喧嘩もする。でも、それは、生きている証拠だった。凛子は、コーヒーカップを置き、タブレットを開いた。今日の予定が、びっしりと詰まっている。でも、凛子は、それを苦痛だとは思わなかった。むしろ、生きがいだと感じていた。
同じ頃、神崎麗奈は、娘たちと朝食を食べていた。「ママ、今日、個展の最終日だね」長女の美咲が言った。「ええ。たくさんの人に来てもらえて、嬉しいわ」麗奈の個展は、予想以上の反響があった。多くの人が訪れ、麗奈の絵を褒めてくれた。中には、絵を購入したいという人もいた。それは、麗奈にとって、大きな自信になった。「ママの絵、私も好きだよ」次女の愛華が、無邪気に言った。「ありがとう、愛華」麗奈は、娘たちを抱きしめた。
離婚という選択は、麗奈にとって、辛いものだった。でも、今では、それが正しい選択だったと思えている。元夫の洋平とは、今でも、子供たちの親として、良好な関係を保っている。完璧な家族ではない。でも、それぞれが、自分らしく生きている。それが、麗奈にとっての、新しい幸せの形だった。そして、野々宮咲は、書斎で、翻訳作業に取り組んでいた。今、咲が訳しているのは、フランスの最新文学賞受賞作。大手出版社からの依頼で、報酬も高額だった。
咲は、キーボードを打ちながら、ふと思った。あの頃の私は、こんな未来を想像できただろうか。透明な存在だった私が、今では、翻訳者として認められ、家族からも尊敬されている。それは、夢のようだった。でも、これは、現実だ。咲の努力と、家族の支えと、そして、仲間たちの励ましが、この現実を作り上げた。咲は、作業を一旦中断し、リビングに降りた。そこには、姑の千代子がいた。「お義母様、お茶、淹れましょうか」
「ありがとう、咲さん。でも、お仕事中でしょう? 無理しないでね」千代子の言葉は、優しかった。かつてのような、評価の目ではなく、本当の心配だった。咲と千代子の関係も、変わった。もはや、嫁と姑という上下関係ではなく、二人の女性としての、対等な関係になっていた。その日の夕方。三人は、『Re:bloom』のサロンで会った。「今日も、お疲れ様」凛子が、お茶を淹れながら言った。「本当に、毎日、充実してるわね」麗奈が、ソファに座りながら微笑んだ。
「ええ。でも、疲れるのも事実よね」咲が、正直に言った。三人は、顔を見合わせて、笑った。「でも、この疲れは、心地いいわね」凛子が言った。「ええ。生きている、って感じがする」麗奈が続けた。「そうね。私たち、本当に、変われたわね」咲が、しみじみと言った。三人は、窓の外の夕日を見つめた。札幌の街が、オレンジ色に染まっている。美しい景色だった。そして、その景色を見ている自分たちも、美しいと、三人は思った。
完璧ではない。でも、自分らしく、生きている。それが、三人にとっての、新しい朝だった。

