それから一年。三人の人生は、それぞれに、新しい景色を見せ始めていた。高村凛子は、夫・誠との関係を、少しずつ、再構築していた。劇的な変化ではなかった。でも、確実な変化だった。誠は、今では、凛子の仕事を理解し、時折、「今日のカウンセリング、どうだった?」と尋ねるようになった。凛子も、誠の仕事に興味を持ち、会話が増えた。ある夜、誠が、珍しく、凛子に言った。「なあ、凛子。お前、最近、綺麗になったな」
その言葉に、凛子は、顔を赤らめた。「そう?」「ああ。なんていうか、生き生きしてる。お前が、自分の仕事を持って、輝いてるのを見ると、俺も、嬉しいんだよ」その言葉が、凛子の胸を、温かく満たした。凛子と誠は、再び、夫婦として、触れ合うようになった。それは、義務ではなく、確かな愛情だった。完璧な夫婦ではない。でも、お互いを尊重し、支え合う、対等な夫婦だった。
神崎麗奈は、離婚を経て、娘たちとの新しい生活を楽しんでいた。経済的には、以前よりも厳しくなった。でも、麗奈は、それでも幸せだった。娘たちとの時間が、何よりも大切だった。麗奈は、絵を描き続け、小さなギャラリーで、個展を開くまでになった。来場者は多くなかったが、麗奈の絵を見て、「素敵ですね」と言ってくれる人がいた。それだけで、麗奈には十分だった。
ある日、元夫の洋平が、娘たちに会いに来た。麗奈と洋平は、リビングで、少しだけ話をした。「麗奈。お前、最近、いい顔してるな」洋平が、静かに言った。「そう?」「ああ。なんていうか、解放されたみたいな」その言葉に、麗奈は、少しだけ微笑んだ。「洋平。私たち、夫婦としては終わったけど、子供たちの親としては、これからもよろしくね」「ああ。こちらこそ」
二人は、もう、夫婦ではなかった。でも、子供たちの親として、協力し合う関係だった。それは、新しい形の「関係」だった。野々宮咲は、翻訳者として、さらに活躍していた。月収は安定して40万円を超え、夫・智也の収入を上回るようになった。だが、咲は、それを誇示することはなかった。ただ、家族と、穏やかな日々を過ごしていた。
ある日、咲は、家族に提案した。「みんな、今度の週末、家族で旅行に行かない?」智也が、目を輝かせた。「おお、いいな! どこ行く?」「函館はどう? 私の稼ぎで、みんなを連れて行きたいの」咲の言葉に、智也は、少しだけ照れくさそうに言った。「咲……お前、すごいよな。本当に」「智也も、いつも家事を手伝ってくれるから。私たち、チームだもの」
週末、咲は、家族を連れて、函館に旅行した。三人の息子たちは、大はしゃぎ。智也も、久しぶりの旅行に、リラックスしていた。夜、ホテルの部屋で、智也が咲に言った。「なあ、咲。俺、お前と結婚して、本当に良かったよ」その言葉に、咲は、涙が溢れそうになった。「私も。智也と結婚して、本当に良かった」二人は、抱き合った。完璧な夫婦ではない。でも、お互いを支え合い、尊重し合う、本当の意味でのパートナーだった。
三人は、それぞれに、幸せを見つけていた。それは、かつて求めていた「完璧な幸せ」ではなかった。でも、それは、確かな、温かい、自分たちだけの幸せだった。そして、その幸せは、自分たちの手で、デザインしたものだった。

