第23章「咲の飛躍」

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野々宮咲の翻訳の仕事は、さらに軌道に乗っていった。月の収入は、25万円、30万円と増えていった。咲のもとには、大手出版社からも、依頼が来るようになった。ある日、咲のもとに、大きなプロジェクトの依頼が来た。フランスの文学賞受賞作の翻訳。報酬は、50万円。だが、納期は二ヶ月。そして、翻訳者としての名前が、本に掲載される。咲は、震える手で、その依頼書を見つめた。これは、大きなチャンスだ。でも、私にできるだろうか。

咲は、栞に相談した。「栞さん。大きな依頼が来たんです。でも、不安で……」栞は、咲の目を見つめた。「咲さん。あなたは、もう、十分な実力があります。自分を信じてください」その言葉に、咲は、背中を押された。咲は、その依頼を受けることにした。それから二ヶ月、咲は、毎日、深夜まで翻訳作業に没頭した。夫の智也は、家事を分担し、咲を支えてくれた。姑の千代子も、咲の仕事を理解し、息子たちの面倒を見てくれた。

咲は、一人ではなかった。家族全員が、咲の仕事を、応援してくれていた。そして、二ヶ月後。咲は、翻訳を完成させた。出版社からの評価は、非常に高かった。『素晴らしい翻訳です。ぜひ、今後もお仕事をお願いしたいです』そのメールを見た瞬間、咲は、達成感に包まれた。私は、やり遂げた。そして、半年後。その本が、書店に並んだ。咲は、夫と息子たちと一緒に、書店を訪れた。

そこには、咲が翻訳した本が、平積みにされていた。表紙には、『訳:野々宮咲』と書かれている。「ママ、これ、ママが訳したの!?」長男の大輝が、目を輝かせた。「うん。ママが、フランス語から日本語に訳したのよ」「すげー! ママ、すげーよ!」息子たちは、誇らしげに、咲を見つめた。智也も、照れくさそうに言った。「咲……お前、本当に、すごいな」

咲は、涙が溢れてきた。家族が、私を、誇りに思ってくれている。それは、咲にとって、何よりも嬉しいことだった。その本は、話題になり、ベストセラーになった。咲の名前は、翻訳者として、広く知られるようになった。そして、咲のもとには、次々と、新しい依頼が舞い込んできた。咲の月収は、安定して30万円を超えるようになった。それは、夫の智也の収入に匹敵する額だった。

ある日、智也が、咲に言った。「なあ、咲。お前の収入、もう俺と同じくらいだな」「ええ。でも、家のことも、ちゃんとやるから……」「いや、そういうことじゃなくてさ」智也は、咲の手を握った。「俺、嬉しいんだよ。お前が、自分の力で稼いでるのが。お前は、もう、俺に頼らなくても、生きていけるんだよな」その言葉に、咲は、少しだけ驚いた。「智也……」

「でもさ、それでも、お前は、俺と一緒にいてくれる。それって、すごいことだよな。お前は、俺を必要としてくれてるんだよな」智也の目には、涙が浮かんでいた。「智也……当たり前よ。私、あなたのこと、愛してるもの」咲は、智也を抱きしめた。二人は、もう、主従関係ではなかった。対等なパートナーだった。そして、その関係は、以前よりも、ずっと強く、ずっと温かかった。

咲は、思った。私は、自分を取り戻した。そして、その結果、夫婦の関係も、家族との関係も、すべてが良くなった。イサム・ノグチの言葉通り、「関係」は、デザインできる。そして、そのデザインの起点は、いつも、自分自身なのだ。

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